はじめての金融教育 No13 「『人形の家』(ヘンリック・イプセン)って、名前を聞いたことありますか?」
はじめての金融教育 No13 「『人形の家』(ヘンリック・イプセン)って、名前を聞いたことありますか?」
クリスマスの奇蹟を描いた作品、何を思い浮かべますか。『クリスマスキャロル』(ディケンズ)ですか。
『人形の家』(ヘンリック・イプセン)って、作品の名前を聞いたことありますか。
1879年に書かれた作品です。イプセンはノルウェーの劇作家。日本では明治12年、士族の反乱から自由民権運動へと展開した時期です。その時代に、男女の同権を主張しています。
日本では1911年に坪内逍遥が私邸で島村抱月の演出、英訳から訳したもので上演。主人公のノーラを演じたのが、女優の先駆け、松井須磨子。1911年は明治時代の最後の年。その翌年の明治天皇の大喪の礼で乃木希典の殉死が起きる。1912年の時点から、明治の終わり、時代の転換を振り返った遺書の小説が、夏目漱石の『心』です。
私は『こころ』を高校1年生や2年生に授業しています。奥さんとお嬢さんが登場人物ですが、ほとんど発言しない。それに対して、『人形の家』のノーラは
そこよ問題は。あなたは一度だってわたしを理解しなかった。ーわたしは誤ってし つけられてきたのトルヴァル。最初はパパに、それからあなたに。(脚注1)
トルヴァルはノーラの夫ですが、トルヴァルの療養のために降り出した借用証書に偽造があったことを、クログスタに問い詰められます。そのことを知ったトルヴァルは、ノーラを叱責します。トルヴァルは銀行の経営者としてクログスタを解雇しようとしてました。ノーラはこの借用証書が夫にわからないようにするために、クログスタの解雇を思い直すよう夫に話して、クリスマスの三日間悩みます。借用証書の件は夫に判明しさまざまな叱責をされた後、その後、借用証書は夫婦の手元に戻ってきます。
クリスマスの奇蹟が起こって夫婦がもとの鞘に納まったたという話であれば、ここで
終わらせるところです。イプセンは、上記のセリフを話し、ここから討論劇が始まります。
今晩、素晴らしい奇蹟は起こらなかった。それであなたは思っていたような人じゃないとわかったの。(脚注2)
漱石は『模倣と独立』の中でイプセンに言及し、規制の道徳や慣習に従わない人間らしさを追求する独立の精神をもった人物としています。ノーラは最後にそういう人物になり、この劇は終わります。
それでは、漱石の『こころ』は規制の道徳や慣習に従わない人間らしさを追求する人物はいたのでしょうか。先生だったのでしょうか。それとも、Kだったのでしょうか。あるいは、先制の遺書を託された私でしょうか。
次に「2022年世界経済フォーラムによると完全な平等に達するにはあと132年必要」という記事です(日本経済新聞朝刊2022年12月19日)。「先進的なアイスランド、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンはジェンダー格差を既に80%以上埋」めています。
上記の棒グラフを見てください。イタリアのクウォータ制を導入後、女性取締役の学位をもつ人の割合が増え、同族家系の女性取締役が減っていることがわかります。また、女性役員の比率が7%から40%に上昇したそうです。10年近くかけて、ジェンダーバランスの改善の合意に達しています。
さて、ノーラの言葉が、皆さまのご家庭のクリスマスに、次のように変わる奇蹟を願っています。
今晩、素晴らしい奇蹟が起こった。それであなたは思っていたような人だったとわかったの。
追伸 「人形の家」についてSpotify、Apple Podcastにて配信しています。作品のセリフ・草稿案などを話しています。ファイナンスブックレビューで検索を。
脚注1・2 『人形の家』(ヘンリック・イプセン 毛利三彌訳 論創社)p140,p147